薗田碩哉の遊び半分

ことば遊びーアナグラムのすすめ

多摩センターから京王線に乗ると2つ目の駅が若葉台である。この駅のホームには当然、どこの駅にもある駅名のひらがな表示があり「わかばだい」と書いてある。これを毎度眺めていてどうも落ち着かない感じがしていた。ある時、アッと思って気が付いた。この5文字をちょっと並び替えてみたのである。すると「ばかだわい」となるではないか。馬鹿だと言われてはおかしな気分になるわけだ。

これは面白い。駅名の文字を並べ替えると別の意味を見つけられるかもしれない。やってみると隣りの京王永山(けいおうながやま)は「ないやがおうまけ=内野が大負け」あるいは「おうまけがないや=お馬毛がないや」になる。千歳烏山(ちとせからすやま)は「ちと痩せますから」、もう少し先の明大前(めいだいまえ)は「家だ目まい」、山手線の高田馬場(たかだのばば)は「バカの束だ」になるが、これはあんまり言わない方がよさそうだ。

最寄り駅である「京王多摩センター」はどうなるか、いろいろやってみたがなかなか難しい。できたのは「おーた、歌いけません」という文句。これを友人の多摩男声合唱団の太田氏に示したところ、たいへん感心していた。

anagram

この遊びは当然、人名でもできるわけで、実は昔、女子短大の教師をしていた時、学生相手に遊んでみたことがある。ある日の授業で登壇するや否や黒板に

「その気出せや!」

と大書したのである。学生たちはけげんな顔、先生のお説教が始まると思ったのであろう。そこで解説、これはアナグラム遊びだ、この文字を並び替えると別の意味になる、それは何かと問いかけた。学生たちは「そのきだせや」という文字をノートに書いて考えていたが、ある学生が「もしかしてこれ先生の名前?」と聞いた。正解である。これは筆者の姓名の薗田碩哉(そのだせきや)の並び替えである。

そこで、学生一人一人、それぞれの姓名のアナグラムを作らせてみた。ややあって一人の学生が「きゃあ~」と素っ頓狂な声を上げた。「あ、あたし、お手玉だあ~」。その学生は伊達真央さん、「だてまお」だから確かに並び替えれば「おてだま」である。今日の今日までその事実に気づいてはいなかったというので、ずっと興奮していた。

名前のアナグラムも暇つぶしにはいい。有名人で試してみよう。「夏目漱石」は「せつなきめそう=刹那決めそう」、「森鴎外」は「いもりがうお=イモリが魚」、「芥川龍之介」は

「けがのくすりゆあわうた=怪我の薬湯泡歌」などというのを作ってみたが、どうもあんまりいい作ではない。

ちなみにネットで人名アナグラムの傑作を調べてみたら

田中角栄→ないかくかえた→内閣変えた

与謝野晶子→このよきあさ→このよき朝

新しいところでは

明石家さんま→あまやかしさん→甘やかしさん

などが紹介されていて、なるほど!と感心させられる。いずれ再考してもっといい作品をめざしたい。

文字を並び替えて別の意味を作り出す言葉遊びをアナグラムという。『広辞苑』を引くと「アナグラム【anagram】言葉の綴りの順番を変えて別の語や文を作る遊び」と書かれている。欧米の言葉はアルファベットの表音文字だからバラバラにすれば、全く別の組み立てがかな文字よりは自由に、豊かに出来るはずだ。

実作を見てみると

A persecution(迫害)→ I run to escape(私は走って逃げる)

Admirer(賞賛者・崇拝者)→ married(既婚者)

A Monday morning(月曜日の朝)→ Man in angry mood(不機嫌な男)

など、いろいろ上げてあって面白い。英語の学習に役立ちそうだ。

先だってテレビ番組でアメリカ映画「遠い空の向こうに」(1999年製作)を見た。炭鉱町に住む4人の高校生がソ連のスプートニクの成功に刺激されて宇宙への夢を抱き、「ロケット・ボーイズ」を結成して手作りロケットに挑戦するという話である。アメリカ映画らしい父と子の葛藤を織り込みながら、さまざまな苦境を乗り越えて少年たちのロケットが見事に大空に飛び上がっていくという青春物語で、なかなか面白かった。

この映画の原題は「October Sky」というのだが―日本語訳のタイトルは「十月の空」を意訳して「遠い空の向こうに」としているが、実はこの原題はアナグラムでできている。

OCTOBER SKY を分解して組み立て直すと ROCKET BOYSになるのである。ロケット少年たちが10月の青空めざしてロケットを飛ばす物語をタイトルのアナグラムで暗示しているというのはまことに心憎いやり方というしかない。日本でもこういう試みがあってもよいと思う。

2022年11月4日 薗田 碩哉

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